映画『奈落のマイホーム』は、韓国の首都ソウルでの住宅問題や社会的課題を背景にしたディザスター・パニックムービーです。
ストーリーの中で、賃貸の保証金が高いなーと思ったり、住宅ローンを組むまでに11年や20年かかったとキャラクターが言っているのを聞いて「ん?どういうこと?」となったので、調べてみました!
映画のストーリーを通して、日本と全く違うソウルの住宅事情や不動産市場の現状について紹介していきたいと思います。
目次
映画「奈落のマイホーム」あらすじ
物語は、サラリーマンのドンウォンが11年越しの夢を叶えてソウルにマンションを購入するところから始まります。新居での引っ越しパーティーの翌朝、突如としてマンションが巨大なシンクホールに飲み込まれ、地下500メートルに落下してしまいます。
大雨が続き、シンクホールはどんどん水で満たされていきます。ドンウォン、マンス、キム代理、そしてウンジュらは、限られた物資と知恵を駆使しながら、絶望的な状況からの脱出を試みます。
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ソウルの不動産市場
ソウルの不動産市場は過去数年間で劇的な変動を経験しています。
2017年から2021年にかけて、ソウルのマンション価格は2倍以上に高騰しました。
2021年6月の首都ソウルのマンションの平均価格は約1億1000万円にものぼり、この4年で約2倍に跳ね上がりました。
ソウルは「世界で最もマイホームが遠い街」とも言われ、中流階級の人でもマンションの購入が難しいという状況が続いていました。
作中でも、部下のキム代理がドンウォンに「ソウルにマンションを購入したことにとても尊敬しています。」と言うシーンがありますが、ソウルにマンションを購入すると言うのは、東京23区の高級マンションを購入するようなステータスがあるのだと思います。
住宅ローンを組むのが困難
映画『奈落のマイホーム』の作中でも、主人公のドンウォンは課長職についており、安定した職に長年就いているにもかかわらず、住宅ローンを組むまでに11年かかったと何度も言っています。彼だけでなく、ドンウォンの隣のマンションに住む50代くらいの住人も住宅ローンを組むのに20年かかった、と訴えるシーンがありました。
これはソウルの住宅事情を反映しており、多くの市民が同様の困難を経験しています。
一方、日本では、3年ほど定職についていて、過去に滞納などの歴がない限り、ほぼ100%の確率で誰でもすぐに住宅ローンを組むことができます。日本の不動産市場は、比較的安定しており、ローンの審査も韓国に比べて緩やかです。
なぜマイホーム購入に11年もかかったのか?
しかし、住宅ローンを組むのに10~20年もかかったのであれば、その返済期間はかなり厳しくなるはずです。
一体なぜ住宅ローンを組むのに11年もかかったのでしょうか。
作中の主人公ドンウォンは、3億9000万ウォンのマンションを購入するために11年かかったと言っています。韓国ではローン審査が日本よりも厳しいということなのでしょうか。彼が11年かかった理由としては、これらの要因が考えられます。
- 高額な頭金や保証金を準備する必要があるため、ローンを組む前に十分な資金を蓄える期間が必要だった。
- ドンウォンが安定した収入を得て信用スコアを向上させるために時間がかかった可能性がある。
- ソウルの不動産市場は過去数年間で急激に価格が上昇しており、中流階級でも住宅を購入するのが困難な状況。
韓国での住宅ローンの初期費用
韓国でモーゲージ(住宅ローン)を受けるために必要な初期費用について解説します。
ここでは主人公ドンウォンの住宅ローンの初期費用を例に考えてみました。
例)主人公ドンウォンの住宅ローンの初期費用
- 住宅価格: 3億9000万ウォン
- 頭金: 7800万ウォン(住宅価格の20%程度)
- ローン手数料: 78万ウォン(0.2%程度)
- 登録税および法務手数料: 390万ウォン(1%程度)
- 住宅評価費用: 30万ウォン(金融機関がローン申請時に住宅の価値を評価するための評価費用)
- 保険料: 117万ウォン(0.3%、年間)
総初期費用: 7800万ウォン(ダウンペイメント)+ 78万ウォン(ローン手数料)+ 390万ウォン(登録税および法務手数料)+ 30万ウォン(評価費用)+ 117万ウォン(保険料)
= 約8355万ウォン(日本円で約840万円)
このシミュレーションはあくまでも予想ですが、ドンウォンがマイホームを手に入れるのに11年かかったというのは、サラリーマンで子供を育てながら、840万円の頭金を用意するのに11年かかった。というのであれば、納得の期間ですね。
家がなければ結婚もできない
それにしても、ソウルのマンションの平均価格が約1億1000万円というのはあまりにも高すぎます。なぜ、ここまで不動産価格が高騰してしまったのでしょうか。
ソウルの不動産市場の高騰にはいくつかの要因があります。
まず、低金利政策が続いていたことにより、多くの投資家が不動産に資金を投入し、不動産バブルを引き起こしました。
また、韓国の「ステータス社会」において、住まいが社会的地位を象徴する重要な要素であるため、多くの人々が高級住宅街に住むことを目指しています。
作中でも、キム代理が気になってた女性の同僚に振られるシーンがありますが、
「なぜ自分の気持ちを彼女にぶつけないのか?」と問われ
「自分はワンルームに住んでて、ライバルの同僚はマンションを購入して既に買った時の値段よりも価値が上昇している。自分に勝ち目はない」と諦めるキム代理。周りの同僚たちも「それは、仕方ない。飲もうか」となるシーンがあるのですが、まさに韓国社会を表現しているようなシーンだと言えます。
住宅ローンを組めなければ、恋愛も満足にできない。そのため、少子高齢化が猛スピードで進んでいる。という社会問題を含んでいます。
独特な賃貸制度「チョンセ」
別に持ち家でなくても、賃貸で充分じゃないか。と思うのですが、韓国では賃貸は日本ほど簡単にはできないのです。
作中では、何でも屋として登場する隣人のマンスが、賃貸でこのマンションに住んでいるのですが、マンスは保証金として3,000万ウォン支払い、家賃として月々85万ウォン支払っている。というのです。
…ん?ちょっと待てよ。保証金として3,000万ウォン。日本円にして約300万円。
賃貸なのに高くないですか?!
保証金とは日本でいう敷金のようなものなので、高くても家賃の3ヶ月分とか、仮に10万円の家賃であれば30万円の敷金、のような印象なのですが、韓国では事情が違うようです。
韓国の賃貸住宅市場には独特の「チョンセ」制度があるためです。
これは、住宅価格の5〜8割程度の保証金を預ける代わりに月々の家賃を支払わない賃貸制度です。ですが、作中では保証金も支払い、毎月の家賃も支払っているので、チョンセにも色んな種類があるのかもしれないです。
しかし近年ではチョンセの物件は減少傾向にあるようで、月々の家賃を支払う「ウォルセ」が増加しているそうです。
まとめ
ソウルの住宅市場は、高騰する価格や独特の賃貸制度、社会的地位を決定する要素としての住まいなど、多くの要因が絡み合っています。
映画『奈落のマイホーム』は、こうした現実の課題を背景にした作品であり、ソウルの住宅事情について深く知るきっかけにもなる映画となっています。
ただ、ソウルの不動産市場も2022年ごろをピークに価格の下落が始まっているそうです。
「マイホームを持っている=成功」という方程式はもう古いのかもしれません。韓国だけではなく、不動産を買うのはしっかりとした調査と返済プランが重要ですね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。